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――ピンポーン
「はーい」
「トラネコ運輸でーす。mamazonさんからのお荷物です」
「あ、はい、どうも」
バリッ。ガサガサ……。
『やぁ! はじめまして、お兄さん。ボクはムゥ、よろしくね!』
視界がパアッと明るくなり、詰められていた箱から取り出されたボクは、ちょっとドキドキしながら挨拶する。なんたって、最初が肝心なんだ。
『ボク、「パケット・モンスター」っていうゲームのキャラクターだよ。普通は白い毛並みだけど、ボクは特別に青い毛並みなんだ。ずうっと仲良くしてね!』
「なんだ、このぬいぐるみ……『ソフト購入者に抽選で当選』? ま、いいか」
眼鏡をかけたお兄さんは、ボクに付いていたお手紙をちょっとだけ見て、ポスンとベッドの上に放り投げた。
ピコピコと流れる機械音を聞きながら、クリーム色の天井をボンヤリ眺める。
『ボク、嫌われちゃったのかな……』
やがて、ボクは入ってきた箱の中に戻された。何度か明るくなったり暗くなったりしたけれど、お兄さんがボクを取り出してくれることはなかった。
ー*ー*ー*ー
「えー、ホントに貰っちゃっていいのぉ?」
女の人の声が聞こえ、パタパタ、足音が2人分続く。
「ああ、何かキャンペーンに当たったとかで入っていたんだけど、オレ要らないし」
「ええ、すごーい」
ガサガサッ。
ヒョイと掴まれて、身体が宙を動く。
「ほら」
「わ、可愛い! 限定カラーなんでしょ? ありがとう!」
キンキン甲高い声が弾む。短い髪の丸顔のお姉さんは、ニコニコしながら、ボクをギュッと抱き締めた。ツンと甘ったるい花のようなニオイがフワッと広がって、ちょっと息が詰まった。でも、ボクを見て笑ってくれた! そのことが、とっても嬉しい。
ボクは紙袋に入れられて、ユサユサ、ガタゴト、賑やかな音の中を運ばれた。きっと、お姉さんの家に行くんだろう。着いたら、きちんと挨拶しなくちゃ。
ー*ー*ー*ー
トントントントン……ガチャ。
「ただいまー、ショウタ、入るよー?」
「何、姉ちゃん」
「ほら、あんたにあげる。『パケモン』好きでしょ?」
「えー? わあっ、ムゥだ! いいの、姉ちゃん?!」
紙袋から出して貰ったボクは、笑顔の男の子にギュウッと抱き締められた。
『はじめまして! 仲良くしてね!』
「スゴいな、姉ちゃん。これ、非売品でさ、500体限定なんだって。ベルカリで5000円で売れてたよ」
『あれ……?』
男の子の視線は、すぐにボクを通り過ぎた。
「へぇ、こんなぬいぐるみが5000円ねぇ」
「シリアルナンバー付いてるんだよ、あ、あった」
『いっ……痛ててっ』
男の子は、ボクの尻尾の付け根をグイと引っ張って。
「すっげぇ! こいつ100番だ!」
瞳を輝かせて、とびきりの笑顔になった。
「ふぅん?」
「バカだな、姉ちゃん。キリ番だと1万くらいになるんだぜ!」
「1万?! ショウタ、これ売っちゃおうか?」
『えっ、売るって?』
「いいよ。姉ちゃん、出品してくれる?」
2人はパアッと笑顔になった。ここに来てから、一番キラキラした笑顔。すっごく、嬉しそうだ。
『待ってよ……ボクのこと、要らないの? やっと、仲良くなれると思ったのに』
「オッケー。取り分は6対4だからね!」
お姉さんに渡されたボクは、再び紙袋に入れられた。それから一度も外に出ることのないまま、どこかに運ばれていった。
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