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 女の人、男の人、おじさん――ボクは、色んな人の手に渡った。  みんな、ボクの尻尾の付け根のタグはしっかり見るのに、ボクのことは、ちっとも見ていない。1万円とか、3万円とか、ボクに値段を付けて、どんどん丁寧に扱うけれど、誰も笑ってくれない。ギュッとしてくれない。 『ねぇ……ボクは、ムゥっていうの。ボクは、青い毛並みのただのぬいぐるみなんだよ――』 ー*ー*ー*ー 「マリナちゃん、これプレゼント」  もう何度目か、ボクは紙袋の中にいた。透明な袋に入れられて、リボンを掛けられている。 「まあっ、青ムゥ! 部長、ありがとうございます!」  薄暗いザワザワした場所。紙袋を覗いたお姉さんは、驚いた顔でボクを見ると、真っ赤な唇を緩く曲げた。笑顔は、ボクを連れてきたおじさんに向けられている。 「マリナちゃん、欲しいって言ってただろ? これさぁ、ちょっとしたブランドもの顔負けの値段するんだよな」 「ふふ。限定カラーで人気あるんですよぉ。部長、嬉しいですぅ」 「そうか、そうか。苦労した甲斐があったよ」 「今夜は、沢山サービスしちゃいますね!」  ボクは、またどこかに連れて行かれた。真っ暗な中にしばらく置かれた後、紙袋のまま動かされた。  キィッ――バタン。 「あぁ……今日も疲れたぁ」  お姉さんの声がして、パッと明るくなった。 「あの部長、調子に乗ってベタベタ触るから嫌だけど、この子は……嬉しいなぁ」  ガサガサッ。  紙袋から出されたボクは、リボンを解かれ、透明な袋からも取り出された。  長く茶色い髪のお姉さんは、両手で抱き上げると、ボクの青い瞳をジッと見た。 「初めまして、ムゥ。ふふっ……可愛いねぇ」  細長い耳や黒い鼻、長いヒゲを触ったり、ビーズの詰まった手足を柔らかく握ったりする。 『お姉さん? あっ、ボク、ボクっ……よ、よろしく、仲良くしてね――』  お姉さんは、少し頬を赤くして、ボクをギュウッと抱き締めてくれた。甘い花みたいなニオイとタバコの煙のニオイがしたけれど、ボクは嬉しかった。  お姉さんは、ボクを大きなベッドの枕元に、そっと置いてくれた。  それから――お姉さんは、毎日挨拶と笑顔を向けてくれた。 ー*ー*ー*ー
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