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 陶器製の白い便器は表面上は便器はごく普通の便器で、プラスチック製の蓋があり開閉構造を持っているごく当たり前の水洗便器の構造をしていた。しかしそのプラスチック製の蓋を開けようとしても、不思議なことにビクともしない。僕の体はエメドラちゃんとブラカスちゃんのアムリタを吸収して、通常のズルンズよりも遙かに強いはずなのに、それなのにこのプラスチックの蓋は開けようとしてもビクともしないのだ。僕は力任せにその蓋を、何度も引っ張ったり叩いたりしたが、それでもまるで効果が無かった。それはまるで時が凍っているかのように、その貧弱なプラスチックの蓋はどうやっても破壊不可能なものとなっていた。  それから便器は裏返すとそこに穴は無く、それは水洗便器として外に汚物を流す機能が完全に無いという事を意味していた。つまり、排泄物はこの便器の中に全て溜まる構造になっていて、つまりオマルのように中身をその都度、外に投げ捨てる必要があるという事を示している。それはプラスチック部分を使った現代的な意匠を施されながら、その反面、中世的な使用方法に限定された、ひどく歴史観にそぐわないオーぱーつ的な物体だと言えた。  そんな便器に対する冷静な分析をしながらも、僕の頭のいっぽうでは相変わらず記憶喪失で有り、自分の知り得ない現代感や歴史観という観念について、いったい何を基準にして語っているのかもよく分からなかった。結局のところ、それは単純に「便器で有りながらひどく奇妙な便器である」という結論だけが、今の僕に理解できる真実だと言うことだった。     
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