いかれたジジイの余生(自作品)より抜粋

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それからというものたくさんの子供がいる中春子さんは1日の長い時間を将暉と一緒に過ごしていた。 「春子さんはこの場所は空気も美味しいし、土地が広く楽しいと仰っていましたが私はそうは思いません。ここからは富士山を見ることが出来ない。東京ではあんなにきれいに見えていました富士の山もここでは顔すら見せてくれない。長い間連れ添った友との別れのようにも思えて、胸が痛むのです」 将暉がそう春子に話すと、春子は黙って涙を流し将暉の肩に自分の肩を寄せてくれた。 そうだ、春子さんだってたくさんの別れをしてこの地にやってきたのだ。 辛い思いの1つや2つないはずが無い。 また違う日春子は将暉にこんな話をしてくれた。 将暉は7歳ながらにして春子の様子がいつもと違うのを察知していた。 「私お付き合いしてた方がいたの。賢治さんっていう私より3つ上の男性。大学で文学の研究をなさっていた方なの。私は勉学には疎い人間だから詳しくは聞いていないけれど楽しいと言ってたわ。ついこの間私がここに来る数日前賢治さんは戦地に収集されたわ。戦地に行く前日私のところに赤い紙持って笑顔で私に報告しに来たの「お国のために戦地へ赴くことになった。今までありがとう」って」 将暉は春子の話をただ黙って聞いていた。 ここで春子の話の口調が変わり独り言のようになっていった。 「笑顔だった。彼最後のさよならまで笑顔だった。人って儚い。人ってなんで生まれてくるんだろう。何をしたらいい人生だったってなるんだろう」 涙が頬を伝う。 「賢治はいい人生だったんだろう」 春子は俯いてしまった。 「将暉くんこれ手伝ってくれるかい」 台所から将暉を呼ぶ声が聞こえる。 将暉は台所に行き水をついで泣いてる春子の隣に黙ってそっと置いた。 その際に春子の隣に手紙が置いてあるのに初めて気づく。 「上園春子さんへ」 その文字だけが見える。 その後も台所から再三呼ばれるのでしょうがなくお手伝いをしに行く。
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