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百匹の虫と昆虫学者の旅
「クモは昆虫ではありません、節足動物です。したがってわたしの専門外の生き物です」
ランシェの昆虫学者ファブレは、天井の隅に立派な巣を張る女郎グモからそっぽを向いた。専門外というよりクモが嫌いなのである。
石畳が敷き詰められた、シャンゼリタ大通りの木造住宅の一軒家にクモが出たので、とって欲しいと依頼されたので行ってみたが、どれだけ虫を食べたらこんなに丸々と肥えるんだと思うほど腹の膨れたクモだった。
「お~、シャンゼリタ♪ お~、シャンゼリタ♪ マジで♪ ガチで♪ 素敵な、街ね♪ 一度はおいでよシャンゼリタ♪」
「ごまかさないで、とるだけでもとって下さいよファブレさん。虫かごの中に入ってる虫を使えばとれるんじゃないんですか?」
一軒家の住人フォンテナは、逃げ出そうとするファブレの襟首をぐいと捕まえた。
「コイツは虫を食べてしまいます。東の国では益虫として重宝されてますが、わたしの大事なコレクションを食べるこの節足動物は、わたしにとっては害虫です」
「虫って密かに認めたわね。て、あなたも虫を食べる癖に」
「エスカルゴは蛞蝓という、無脊椎動物です。しかし困りましたねフォンテナさん。相手がゴキブリならゴキブリホイホイでなんとかなるんですが、クモとなると......」
フォンテナは女郎グモを眺めて、思案を巡らせる。
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