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男は、失われた秘術を使うという拳法の達人である老師の名を聞きつけ、ぜひ弟子入りしたいと必死に訴えた。何度目かの押し問答の末、老師の住まう洞窟で起居をともにすることを許された。
老師の使う白王流拳法は非常に荒っぽい。男は老師の元へ弟子入りしてから、生傷の絶えない毎日を送るようになった。
徹底的に体をいじめ抜き、野に自生する草や果実を食べ、山に棲む獣を仕留めて肉にする。薬草と毒草の見分け方を覚え、人体の急所を学ぶ。
めまぐるしい日々の中で、男は百番まである拳法の型を一つずつ身につけていった。
そして今日。
一子相伝である、百番目の最終奥義を伝授してくれるという。
「いままで、おぬしが身につけてきた中にも危険な術式はいくつもあった。じゃが、この最終奥義は、それらとは比較にならないほど危険なものじゃ。おぬしの心身が万全の状態になくば、取り返しのつかない傷を負うやもしれん」
「大丈夫です。ぼくの体調には、なんの問題もありません」
「おや。足元が震えておるのではないか」
「老師、これは武者震いです!」
白王流拳法の秘中の秘が、明らかになるのだ。この日を夢見て、つらく苦しい修行に耐えてきた。男は奥歯を噛みしめて、力強くうなずいた。
「お願いします。どうか、ぼくに秘儀をお教えください」
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