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「よかろう。これから儂は、おぬしの額に指を押し当てる。そこから伝わる波動を正確に受け止め、体全体を使って共鳴させてから、再び儂の指に返すのじゃ」
「波動を、共鳴して、返す……?」
「八十番の型で教えたはずじゃ。あの時は、手から与えた波動を、そのまま手に返したな。この百番では、おぬしの体全体を鏡のようにして反転させる。非常に高度な技術が必要になる」
男は目を閉じて、想像してみるが、いま一つ実感が湧いてこない。
「最も肝要なことは精神の集中じゃ。気を抜いて、よそごとを考えておれば即座に命に関わるぞ」
「わかっております」
風はますます強くなっていた。時折、砂嵐のようにつむじ風が襲ってくる。巻きあがる土煙で目が痛む。
「ゆくぞ。白王流拳法、百番。百夜一閃」
杖を置いた老師はあたり一面に響くような高らかな声で唱えあげると、両方の掌を天に向けた。
腰を低く落として、膝を曲げて踏ん張り、拳法独特の型を目にも止まらぬ速さで繰り出していく。
老師が顕す複雑な手技に、男は大きく目を見張った。バチバチと静電気のような音が弾ける。空は見る見るうちに暗くなり、山の木々はどよもし、はるか遠くから雷鳴のようなものが轟く。
「う、うそだ。こんな、こんなことって」
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