最終奥義

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 これまで、老師のもとで数々の神秘的な術を目にしてきたが、最終奥義は桁違いだった。莫大なエネルギーの凝集によって、天の気象まで操ってしまうらしい。 「こんなの、受け止めきれない……」  老師の掌から発する光がまぶしくて、目が開けていられない。時空が歪んで見える。  爆風をともなう凄まじい圧力と熱量が、男の全身を襲う。 「うああああああっ!」  白い閃光に包まれる。あまりの衝撃に激痛を覚える暇すらなく、一瞬で気を失っていた。  男が目を開いたとき、薄曇りの空を背にした白髪の老人の顔が見えた。 「あれ、ぼくは、いったい?」  手をついて体を起こす。顔も腕も着ているものも全身ほこりまみれになっていた。手の甲で額を拭うと、うっすらと血がにじんでいるのがわかる。  自分の身に起きたことを思い出そうとすると、こめかみに鈍い痛みが走った。 「……ああ。やはり、な」  ボロをまとった老人は血色が悪かった。ひどくやつれた顔で、その場に腰を下ろした。 「あの、あなたが助けてくださったんですか。すみません」 「礼には及ばぬ。ところでそなた、家はどこにあるのじゃ」 「家? わかりません。あの、ぼく、自分の名前がわからなくて」 「覚えておらんのか?」     
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