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そして、余計に 心配させてしまった自分に気づいて、
情けなさそうな微笑みを ショウゴに返す。
カイのそんな表情(かお)を見たのは初めてで、
ショウゴの胸も詰まった。
かわいい箱入りムスメを心配する、母の心境だ。
・・どちらも、もって生まれた性別はオトコではあるが。
「まーったく!
ド~コほっつき歩ってんのかしらねえ、
あの子は?」
ショウゴがわざわざズズッと 音を立ててお茶をすすり、
空気の中に紛れていた カイの悲しみ粒子を
3キロほど消滅させる。
今日も、お重に詰められた惣菜は2人分だ。
カイと、オウジの分である。
食欲などミジンもないカイには、
とても食べきるコトが出来る量ではなかった。
「 ゴメン、ショウゴさん。
・・オウジ君・・・
もう 帰って来ないんだ ・・ 」
「えっ・・?」
それ以上は、言葉にならなかった。
声に出せばまた
どうにも扱いきれない悲しみやら
切なさやらが突き上げてくる。
そんな自分を見せて、
これ以上ショウゴの顔を 曇らせたくはなかった。
「ああ美味しい~。 いいお茶ねぇ。
さすがカイちゃんのお母様だわ。」
その本当に旨そうなつぶやきに
今度は2キロ、また部屋の空気が軽くなった。
カイはぼんやりと湯飲みをのぞきこむ。
今のカイには、香りすらわからない。
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