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「縛られたくない過去なんて、忘れてしまっていいのよ?
カイちゃん。」
唐突に、そしてキッパリとショウゴは言い放った。
「カイちゃんは、
・・もうオウちゃんと逢いたくないの?」
「・・・・」
「オウちゃんだって、
きっと逢いたいに決まってるわよ。
・・・何があったか知らないけど・・」
4枚羽のファンから送られてきた風に
ベッドの脇の モンステラの葉が揺れる。
そこにはもう クリスマスの靴下は下がっていなかった。
「NY(ここ)の連中は、
みんな何かを捨てて 来てるのよ。
家族や 親族のしがらみや、
祖国を捨ててきた人もいる・・。
みんなこの新しいアメリカの土地に
希望を求めて、
未来を築きに来てる。
カイちゃんとオウちゃんが出逢ったのも
この街でしょう?!
マンハッタンのイーストヴィレッジで
初めて逢って、気が合って、
そんで2人の生活が始まったんでしょう?
That's allよ、 それだけ!
過去のことなんて、もう消えてしまったことだわ」
「・・ そんな風には 割り切れないんだよ、
ボク等は・・
オウジ君は ボクを見れば
思い出したくない過去を 思い出すし
それはボクも 同じなんだ・・・。」
あれから 一睡もしていないのかもしれない。
涙も枯れ果てたと言わんばかりに
生気をなくしたカイの、陶器のように透き通った
頬を見て、ショウゴはそう思った。
「そう・・。」
ショウゴはそれ以上口を挟まなかった。
ただ、黙ってそこにいて
自分の持ってきた肉ジャガを食べた。
カイもショウゴにつきあった。
手の込んだ料理を、
それも気づけばカイの好きなものばかりを、
色とりどりに盛り付けてやってくる、
ショウゴの愛に応えたかったのだ。
鉛のように固まったノドに、
味のわからなくなっている芋を 飲み込むのは
生易しいことではなかったが。
懸命に咀嚼するカイを見て、ショウゴは思う。
何が起きても、 人は乗り越えてゆけるのだ と。
今よりいい未来は 必ずどこかに存在するのだから
カイもオウジも きっとそこを見つけ出す。
信じることと食べる事が、
今のショウゴにできる 精一杯のサポートだ。
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