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「ね、知ってる?カイちゃん
好き合ってる者同士にはね、引力が働くのよぉ?」
ことさら明るい声で言う。
「ショウゴさんとこみたいに?」
カイがやんわりと微笑んだ。
店に集ってくる常連しかり、
プライベートのパートナーや 友人関係も
ショウゴの周りは いつも暖かで賑やかなのだ。
「またきっと逢えるわ、なんとかなる。
なんたってここは奇跡の街、
ニューヨークだもの・・・!!」
セブンスストリート沿いの窓を見あげると、
カイの描いた満開の桜が
アトリエを包み込むように 咲いていた。
オウジと2人、即席の花見をした 名残の桜だ。
「ボク、オウジ君に言ったんだよ。
人の人生には、
きっとその人だけの 時間と意味があるんだ・・って。
だからヒナだってオウジだって、
在るべき時間まで ちゃんとボクの前に
存在していたはずなんだって、
そう思ってるハズなのに・・・
なんでこんなに 苦しいのかな・・」
「それはね、カイちゃんが愛してるからよ。
心から愛してるの。
ヒナちゃんも、オウちゃんの事も」
カイは、ショウゴの小さなどんぐり眼を見返した。
「大切なものを失った時は、
愛してるのと同じ分だけ 苦しいの。
・・・だから、いいのよ? 苦しくても」
「そうか・・
いいんだね・・。」
だからきっと 歌がある。
苦しみを癒すため
美しい命に 変えてゆくため
人は歌い 踊り 絵を描き
愛を捧げるのだ。
「いいんだ・・。」
カイの頬を涙が またひとつ伝ったが、
もう隠さなかった。
きっとキミも 今頃どこかで歌ってる。
声が出なくても
ボクの前に居なくても
心の中で
きっとどこかで。
アトリエの満開の桜から ふと
あの少年の残り香が 香った気がした。
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