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第12章 王様の苦悩 [莉王side]
日も沈みかけた夕刻、校舎別棟の屋上。
落書きだらけの椅子に座り、莉王は校庭を眺めていた。
校内で派手にケンカをした後なのだろう、血の付いた制服で校門へと向かっていく数人の生徒たちの姿に、かつての自分を重ねて、少し笑ってしまう。
「何でもいいから一番になれ」。
幼い頃から、莉王は父親にそう言い聞かせられて育った。
王という字が名前に入っているのも、父親のそんな思いが由来なのだと、かつて母親から聞かされた。まだ母親との会話が成り立っていた頃のことだから、ずいぶん前の話だ。
勉強は大嫌い、運動神経は良いものの、部活を真面目にできるタイプでもない自分が、何かで一番になんて、なれるはずもない。
そんな風に思いながら、順調にグレていた中学時代、当時遊んでいた仲間から、たまたま私立鷲尾高校の噂を聞いた。
「あそこ、このへんのヤンキー高校の中で一番ヤバいらしいよ」
「鷲高のトップは『王様』って呼ばれてて、生徒全員従わせてるらしい」。
当時の莉王は、素直に「おもしれぇな」と思った。
そんなヤバい高校があるなら入ってみたい、自分の実力がどの程度なのか試してみたい。
そして出来れば、「鷲高の王」とやらになって、「何でもいいから一番になれ」という父親の願いを、果たすことが出来たなら。
このつまらない毎日も、少しはおもしろくなるかもしれない。
そう思い、鷲高に入学し、数え切れないほどのケンカをして、莉王は鷲高の王になった。
鷲高に入ったことで、母親、そして新しい父親との溝はさらに深まったけれど、志季や晴斗たち友人にも恵まれ、高校生活はそれなりに楽しかった。
王になるまでは敵対勢力との抗争、王になってからも下剋上を狙う下級生の鎮圧など、争いは絶えなかったけれど、多くの同級生や下級生に慕われ、人には恵まれていたと思う。
そうした友人たちとの出会いだけでも、鷲高に入った意味があるというものだ。
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