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莉王たちが普段相手にしている、鷲高と同じような不良高校相手であれば、話はもっと簡単だ。
トップ同士でタイマンを張るとか、全生徒をかき集めて襲撃をかけて戦争するとか、いくらでもやりようはある。
不良高校同士の間では、不思議と暗黙のルールじみたものがある。
ケンカはしても、病院送りになるほどは殴らないとか、刃物は使わないとか、関係ない人間を巻き込まないとか。
当然、ケガ人が出たとしても、余程のものでない限りはお互い様で、いちいち警察沙汰にもしない。あくまでも素手同士の、お互いの力を競うためのケンカ。
―――けれど、宝生院には、そんな暗黙のルールは通用しない。
こちらの生徒が理不尽に暴行されたからといって、いつもの不良高校相手と同じように殴り込みをかければ、簡単に警察を呼ばれるだろう。
宝生院に通う生徒たちは皆、良家の子息で、家にお抱えの弁護士を付けているような連中ばかりだ。
少しでも傷をつけようものなら、大ごとになり、鷲高の側が一方的に悪者に仕立て上げられるのは目に見えている。
また、志季の調べによれば、宝生院学園の理事長――つまり、宝生奏の父親は、警察のお偉方と交友関係がある。
噂のレベルだが、かつて宝生奏がいじめで同級生に大怪我を負わせた際、被害生徒が警察に出した被害届がもみ消されたという話もある。
宝生院の側にしてみれば、学校や家に守られた状態で、好きなだけ鷲高にちょっかいを出すことが出来る。
一方、何の後ろ盾も持たない莉王たちの側は、報復したくても思うように手が出せないのだ。
「‥‥くっそ、どうすりゃいいのかわっかんねー‥‥」
ガシガシと頭を掻きむしりながらそうこぼすと、志季も近くに腰かけながら、「まぁ、今回は相手が悪すぎるな」と嘆息した。
「考えなしに向こうに襲撃をかけるのは自殺行為だからな。とりあえずは情報を集めて‥‥何かあっちの弱みでも握れればいいんだが」
「殴り合いで決着つけらんねぇのがイラつく‥‥」
「仕方ないだろ。下手にやり返せば少年院送りだぞ」
志季の言葉に、莉王は何も言い返せず、固まってしまった。
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