百戦錬磨のあの人は…

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 (ま、いつものことか…)  と諦めて、思う。  いくら想っても結ばれないなんて、わたし自身が一番よく分かっているのに。  わたしの想いにあの人は一切気がついてなどいなかった。  諦めて思ったはいいが、それと同時に複雑な感情も沸きあがり、わたしは八つ当たりのように人だかりを睨んでしまう。  そこへふいにあの人が顔を上げ、わたしに気がついた。  わたしもあの人が気がついたことに気づき、すぐさま表情を変え、ニコッと笑顔を作り、微笑む。  人だかりの女の子もあの人につられて、わたしの方へと嫌な視線を向けてきた。  が、見ていないフリをして、全て無視。  すると、あの人は口を開いて、  『待っ・て・て』  と距離的に聞こえないであろう、わたしに口パクで伝えてくれる。
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