風速100メートル

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 刑事である立神馨(たてがみかおる)は朝から盛大に頭を悩ませていた。彼の足が動物園に向かったのは無意識に近く、気付けば春うららかな陽気のもと、ライオンの檻の前に立っていた。 「また来たのか?」  呆れたように深い溜息を吐きながら、ライオンの虎太郎(こたろう)が檻の奥から姿を現した。獅子の姿に相応しい渋くて低い声が特徴的だ。しかし、この世に生を受けてから、まだ四年であり、先月誕生日を迎えたばかりである。 「君がそんなことを言うなんて珍しいな。いつもは僕のことを来ないか来ないかと待ち望んでいるのに」  今では日常になってしまった異常に立神は平然と言葉を返した。立神も傍から見れば自分たちは異常だということに気付いている。しかしながら、一年ちょっと前に檻の前で「ライオンなのに、虎って……」と口に出した時から「俺もそう思っている」という返答を受け、この異常な関係は続いているのである。  何故、互いに会話が出来るようになったのか。立神が急に動物の言葉を分かるようになったのか、虎太郎が急に人間の言葉を話せるようになったのか、それは不明だが、立神は虎太郎以外の動物とは話せないし、虎太郎も立神以外と話すことは出来ない。 「最近、俺もここの生活に慣れてきてな」 「一体、どんな生活をしているんだい?」  先日まで「退屈だ」と口を開けば言っていた虎太郎が退屈の「た」の字も言わなくなったことに立神は大変驚いた。それならば、ここの生活を楽しむ何かを見つけたに違いないと大いに期待する。
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