風速100メートル

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「朝、寝る。昼、寝る。夜も寝る」 「寝てばかりじゃないか」  ただ、ぐうたらな生活が身についてしまっただけではないか!羨ましい!と立神は心の中で叫んだ。実際の空間は、あまりにも静かで立神の足元を危機感ゼロのハトが一羽、ポッポロと歩いて行った。人間は立神以外、誰も居ない。 「で、今日は何を持ってきた?」  翡翠動物園という平穏な雰囲気に引き摺られかけていた立神は、虎太郎の言葉にハッとして自分が悩んでいたことを思い出した。 「そうだった、とても困っているんだ。手を……、いや、君の頭を貸してくれないか?」  立神は捜査に行き詰まると虎太郎に会いに来る。何故なら、この四歳になったオスライオンは見た目に似合わず秀才で、数々の難事件を檻の中から解決してきた名探偵だからだ。そんな虎太郎を立神は心の中で鬣探偵(たてがみたんてい)と密かに呼んでいるが、当人、いや、当獅子には内緒である。 「ああ、いいぞ。ほらよ」  そう言って、虎太郎は暢気に自分の鬣を檻に擦り付けた。ただのマーキングである。 「そうじゃない」  檻より手前の柵を握る手に力が入る。事件の謎が解けずにモヤっとするが、大きく文句を言えば虎太郎は話を聞いてくれなくなるかもしれない、と立神は必死に気持ちを抑え込んでいるのであった。
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