序章 桜の木の下で

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「君、トミーくんっって言うの? 探偵って、本当に?」  半信半疑で尋ねてみれば、トミーと呼んだ人形はこくっと頷く。 「探偵検定一級保持者の中でも、俺ほど美しく優秀な探偵はいない」  なんて言うかもう、言葉を失いそうなほど脱力しかけたけど、僕は最後の力を振り絞って口を開いた。 「そ、そうなんだ。そんなに一流で優秀だって言うなら、お願いだよ。僕の無実を証明してくれないか。僕は犯人じゃない。犯人にされたんだ。はめられた。誰かに」  救急隊は為す術がなく諦めたらしい。代わりに彼と彼の周辺を調べはじめたのは、やはりスーツ姿の大人達だった。  僕はブレザーのポケットの中に隠してあった紙を取り出すとトミーに見せた。  トミーは僕が差し出した紙を見つめると一瞬目を細め、ほっそりとした白い指を一本ずつ立てた。 「その1、事件のあらましが難解そうなこと  その2、事件内容が猟奇的であること  その3、依頼人が美しいこと  それが、俺が依頼を受けるか受けないかのラインだ」 「……は?」 「残念ながら、お前の事件はそのどれにも当てはまっていない」 「そんな!」 「そもそも報酬を支払えるのか?」 「それは……、払うよ。もちろん払う。僕の無実を証明してくれるのなら、どんなことをしてでも絶対に払うとも。だからその、変な条件には当てはまってないとしても、例外で、助けてくれないかな」 「変な条件だと?」 「あっ、いや、すごく独創的すぎて僕には理解できないけど、でも、お願いします。この通りですから」  僕はその場に膝をつき、土下座までして見せた。  トミーはそんな僕のことを物珍しそうにまじまじと見つめていた。  それから手にしていたスマホに目を落とす。 「……美しく、ないこともないか」  ぼそりとつぶやくと、トミーは一言「分かった」と頷いた。  どうしてこの時トミーが僕を助けてくれる気になったのか、僕は知らなかった。  美しいだのなんだのの意味もさっぱりわからない。  もしかしたら、ただの退屈しのぎだったのかもしれない。  それでもよかった。僕はその一言にほっとしたのだ。これでひとまず僕はこの場でお縄を頂戴されることはなくなった。  これが美少年探偵と呼ばれるトミーと僕との、運命の出会いだった。
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