第四十一章 思案

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第四十一章 思案

仕事の途中で抜けていた事を思い出し、 滝川は慌てて職場へと戻った。 “健康な心臓と2億を手に入れる。” それは無謀な話だった。 使う事はほとんど無い為、 彼自身には数千万円の貯金ならある。 だが、30代のサラリーマンではせいぜいそんなものだろう。 家のローンと老後の資金、 それを考えると両親にも簡単に出せる金額ではない。 しかも手術の成功率は半分以下なのだ。 それを半分あると思うのか、半分しかないと思うのか。 下手をすれば、姉はいなくなり 莫大な借金だけが残る。 彼自身、何としてでも姉を助けたいと思っているが そこまで思い入れがあるのは、恐らく彼と実母だけだろう。 父も義兄も理性的だ。 簡単に割り切れる問題ではないが、 4人分の人生の負債と、一人の生命を考えた時に 4人のほうを選ぶ事を、薄情とは言えなかった。
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