『真山司』という名前

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『真山司』という名前

 入部した後に一年生全員で自己紹介をした。新入部員が一列横に並んで名前、出身中学、経験者は専門種目を言うものだった。僕の番がやってきて、 「真山司です。新川中学出身です」  と名前を言うと先輩たちが驚いた顔をした。どうしたんだろうと思っていると、右にいた知念が 「あ、同姓同名ってやつです。こいつは陸上経験者とかじゃないっす」  と言った。すると、先輩たちは「だよな」と納得したように頷いていた。知念は「後で教えてやるよ」と小声で言った。僕はその場は頷いておくことにした。  一年生は男女合わせて八人が入部した。男子四人、女子四人で、僕と女子の小林は陸上未経験者だった。  男子の知念、篠原は短距離で、知念は100mで県の決勝まで進んだ実力者らしい。 「ま、8位だけどね」  と言うが個人競技で県のベスト8ってすごいことではないか。あまりひけらかさないあたりが知念の性格なのかもしれない。    初日の部活が終わり、帰る途中に僕は知念を捕まえた。 「さっき、先輩たちがオレの名前を聞いて、驚いたようになってたじゃん」 「ああ」 「で、知念が『同姓同名なだけ』って言ってたアレってなに?」 「アレな」  知念は目を閉じて何かを考えているようだった。やがて、目を開くと、 「同じ学年で陸上やってる奴ならみんな知ってるんだけどさ」  と言いながら、携帯電話をいじりはじめた。 「何を?」 「『真山司』の名前」 「はぁ?」  なぜ僕の名前をみんなが知っているんだ?  その答えとでも言うように知念は携帯電話を僕に見せた。それは昨年の中学の男子100mの県十傑が載っているサイトだった。 「1位の名前みてみろよ」 「1位……?」  知念に言われるままに見た1位の選手の名前を見て、僕は思わず「え?」と声を漏らしてしまった。  県1位の名前に表示されていたのは、『真山司』の名前だった。 「真山司っていえばさ、オレらの学年で県1位の奴なんだよ。北信越大会も制して、全国まで行ってる。全国で4位入賞したすごい奴なんだ。何なら中一から三年連続で全国に出てる」 「そんな……すごい同姓同名がいたのか……」 「ま、中学陸上のニュースなんて新聞やテレビでもほとんどやらないからな。陸上部じゃなかったオマエが知らないのはおかしいことじゃないよ」 「それで先輩たちは驚いていたのか……」 「あの『真山司』がウチなんかに!? ってね。だから同姓同名なだけって言ったんだよ」  知念は笑いながら僕の肩を叩いた。 「ま、気にしなきゃいいんだよ。オマエが別人だって先輩たちもみんなわかってるし」 「うん、そうだな」 「楽しくやろうぜ」  僕はいい気分で知念と別れて帰り道についた。
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