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いつもならそうしてやって来ては、リリーを口説いたりおしゃべりしたりして帰る。
だが、その日は開口一番、「惚れ薬ってある?」だなんて言い出したのだ。
惚れ薬といえば、飲ませた相手に恋心を起こさせる薬だ。話には聞いたことはあるが、その存在は疑わしい。それにあったとしても、ユーリにはもっとも必要ないものだろう。
微笑みかければどんな女性でも頬を赤く染めるし、甘い声で囁けばだいたいの女性を恋に落とさせてしまう。
少なくとも、ユーリのことを嫌いな女性をリリーは知らない。
「そんなものなくたって、たいていの女の子はユーリを好きになるでしょ?」
かつてのユーリの恋の遍歴を思い出し、リリーは苦笑する。
本当に、ユーリはこれまでたくさんの女性に好きになられてきた。そのせいで、リリーはしょっちゅう女性からやっかみを受けている。
「だめなんだ。ちっとも相手にされない。言葉が、届かないんだ」
「そう、なの……」
リリーの苦笑いに、ユーリは切なそうに目を伏せた。てっきり軽口が返ってくると思っていたから、うまく相槌が打てない。それに、そんなふうに真剣な顔をしているのを見ると、胸がチクリと痛んだ。
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