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泣きそうになるのを何とかこらえて、リリーは言った。努めて笑顔でいるのは、せめてもの矜持だ。好きな人の前でみっともなく泣いたりしたくない。その思いだけで、やっとのことで踏ん張った。
「じゃあ、どうしたらいいのかな。どうしたら、その人に思いが届くのかな」
リリーの苦しみにまるで気づかず、なおもユーリはリリーを見つめる。榛色の目は、切なげに細められている。
その視線が、問いが、どんなにリリーの胸をえぐるのか、ユーリは知らないのだ。
痛くて苦しくて、泣いてしまいたくなった。それでも、これからも友人としてユーリのそばにいたいのなら、質問に笑顔で答えなければならないのだ。
「それなら、今までみたいな軽口はやめて、その人にだけ『好き』って言うようにしてみたら? そしたら、信じてもらえるようになるかも」
言いながら、またズキンと胸が痛む。
もし本当にユーリが想い人にだけ「好き」と言うようになったら、リリーも言ってもらえなくなるということだ。もう甘い声で囁いてもらえなくなるということだ。
そのことがわかって、目の前が暗くなる。
「そうか。……じゃあ、今後はそういう方向性で頑張ってみるよ」
欲しい言葉ではなかったのか、困ったようにユーリは笑った。
そんなふうにユーリを困らせる人がいるのだということに、リリーはいよいよ泣きたくなった。
それでも、その日リリーは笑顔でユーリを見送った。
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