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第一話 戸惑いのキス
腰と後頭部に手を添えられただけで簡単に身動きが取れなくなるということを、リリーは今初めて知った。
「んっ……」
だめだと思うのに、必死に拳で胸を押し返すのに、ユーリの身体はびくともしなくて、唇はほしいまま彼に奪われてしまっている。
しばらく唇を重ねていると、今度は舌を差し入れられた。歯を閉じて拒んでも、その歯列を丁寧になぞられる。
ユーリの舌はまるで意思を持った生き物のように、リリーの口の中を動き回る。そして、ほんのわずか、息継ぎをしようとした隙に口内に入りこんで、リリーの舌に絡みついてきた。
(……どうして? こんなの、変よ……)
口づけられながら、リリーの頭は混乱していた。
ユーリの接吻が嫌なわけではない。むしろ、夢でも見ているのかと思うほど幸せだ。だからこそ、今起きていることが信じられない。
触れ合う唇の柔らかさと温かさによって、夢ではなく現実なのだと思い知らされる。思い知らされるごとに、「どうして?」という疑問がわく。
ユーリには想い人がいることがわかって、リリーは彼への恋心をあきらめなくてはと決意したばかりだったから。
リリーは、出会ったその日にユーリを好きになった。
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