第10章 地球軌道へ

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「機体の表面温度が上昇している。リサ、PTCを開始して!」 ビルがセンターモニターの表示を見ながら言った。 「了解(コピー)、ビル。PTCを開始するわ」 ロール回転を発生させ、太陽からの照射を均一に受けるようにする。10分に1回が標準のスピードだ。 理紗は左手の推力(スラスト)レバーを右へ少し動かし、チャーリーブラウンをロール回転に入れる。幸いな事に、チャーリーブラウンは微小な歳差運動しか発生しない。この為、歳差運動の修正噴射も殆ど必要無さそうだった。 月の裏側での離脱加速から35時間後、最終の軌道修正を行った。軌道傾斜角32度の地球軌道に乗る為の修正だった。 J1エンジンを25秒噴射して修正が完了する。 目の前には真っ青な地球が窓一杯に広がって来た。 「帰って来たんだ・・」 ビルが感慨深げに呟いた。 理紗は彼が一人で月面で暮らした20日間を想うと、複雑な気分だった。 父を失い、帰還手段も無く、自分だったら冷静で居られるだろうか・・? でも彼は最後まで生きる努力をしていた。そして、きっと理紗が救援に行かなかったら、MMUの燃料ギリギリだとしてもマスドライバーでの軌道到達をチャレンジした筈だ。 10歳なのに、なんて強くて才能豊な男の子なんだろう・・。 理紗は決意を新たにしていた。絶対に彼を地球に連れて帰り、マリーに元に届ける事を・・
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