第10章 地球軌道へ

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第10章 地球軌道へ

「ねえ、ビル。何故、司令船(コマンドモジュール)を『チャーリーブラウン』と呼んでいるの?」 チャーリーブラウンの地球帰還準備を整えながら理紗がビルに聞いた。 「理紗は知っている? アポロ計画の時も、必ず司令船(コマンドモジュール)月着陸船(ルナモジュール)にはニックネームが付いてたこと・・」 「知ってる。アポロ11号の時は、司令船(コマンドモジュール)が『コロンビア』で、月着陸船(ルナモジュール)が『イーグル』だったでしょう?」 ビルが頷く。 「そう、そしてアポロ10号が『チャーリーブラウン』と『スヌーピー』を使っていた。アポロ10号の『スヌーピー』は月面高度15キロまでテスト降下したけど、そのまま着陸する事は無かった。父さんが今度は着陸させてあげようと言って名付けたんだ」 そうかと理紗は思った。でも結局、『スヌーピー』はまともな形で月着陸を成功させる事は出来なかったけど・・ 理紗とビルはチャーリーブラウンの月軌道離脱噴射の準備を整えた。月の裏側でブースターの二段目によって行われるこの加速は、63秒の噴射で速度を秒速987メートル加速させ、月の重力圏を離れ、地球への帰還コースに遷移させるんだ。 理紗が左の操縦士(パイロット)席に座り、ビルが中央の船長(コマンダー)席に座った。ビルが軌道離脱噴射のカウトダウンをしてくれる。 「8、5、4、3、2、1、マーク」 ビルのタイミングを合わせ、理紗はブースター二段目のJ1エンジンを始動させた。 地球から見て月の裏側でチャーリーブラウンの月軌道離脱加速が始まった。 「J1始動良好。推力計画公差内」 ブースターのエンジンも予定通りの推力を出し、チャーリーブラウンは約1分強の加速で月軌道から地球への帰還軌道へ遷移した。地球までは約40時間の飛行だ。
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