佐吉と沙織

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 けれど沙織はただの我儘な娘ではなかった。  幼い頃から見事な細工の菓子を見て、細工に詳しくなった他、香りも味も全部記憶していた。作り方までしっかり頭に入っていたのである。  佐吉と一緒に様々な屋敷に菓子を届けたこともあった。また職人頭についていき、小豆やもち米、砂糖などの材料の仕入れを眺めていたこともあった。もっとも沙織が仕入れについていったのは、習い事の稽古を休みたいという魂胆があったからだが。  沙織自身に菓子作りや店の切り盛りに並々ならぬ関心があったことと、佐吉と両親から引き継いだ天性の素質からか、沙織は十歳を越える頃には菓子作りへの助言から、接客、仕入れに関してまで抜群の才能を見せ始めた。  沙織は鼻持ちならない我儘な娘だったが、佐吉にも職人、女中を含む使用人達からも、正当な店の跡継ぎとして一目置かれるようになった。  佐吉は方々で沙織を自慢し、将来はどこかの裕福な息子を婿養子にしたいと思うようになった。再びゆったりした老後を送ることを夢見るようになったのである。
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