夢の中

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夢の中

 夢を見ている…修(おさむ)はそう思っていた。  今、彼がいる場所はどこだかわからない。見渡す限りの銀世界。膝丈ほどの雪が積もっている真っ白な世界だった。  薄明るい曇り空だから昼なのだろう。  修の目の前には古びた家が一軒あった。その屋根にも重そうに分厚い雪が積もっていた。だが頑丈そうな造りの家で、そのくらいの雪ではびくともしない、そんな強さを感じさせた。  修が夢だと思っている理由は、目の前の家を知らなかったし、なぜ自分がそこにいるのかもわからなかったからだ。  一番変なのは寒さも冷たさも感じないことだ。修は秋用の薄手のセーターとズボンをはいていたが、このくらいの雪があれば、昼間でも当然、吐息が白くなるはずだ。素手をズボンのポケットに入れても、震えがくるくらい寒いはず。  何もかもが変な気がした。夢としか思えなかった。  古い家の前は、ちょうど人が一人通れるほどの雪かきがしてあった。修を招いているかのようだった。  修はその家が気になってずっと見続けていた。でも家の中からは何の音もせず、人がいる気配も感じられなかった。  時が止まってしまったかのように、周囲も静寂そのもので、空気の動きさえ感じられないのだ。 『辺りに生気がない…そんなことってあり得るのか?』 生気を放っているのは、呼吸音を大きく響かせている修の体だけだった。 『変だ、何もかも不自然…やっぱり夢…?』  修は試しに自分の腕をつねってみた。痛かった。 「痛い? 現実…?」修は混乱した。 『僕は現実と夢の狭間にいたりして? それともここは現実世界の影みたいな所…? 現実世界にそっくりだけど何かが足りない…。まるで…そう、鏡の中にいるような!』  修は雪かきで盛り上がった所に手を入れてみた。山盛りの塩の中に手を入れてるみたいだった。 「あり得ない!」  静けさの中、修の声が大きく響いた。  修は雪から手を抜いて、見知らぬ古い家を背にした。そして雪かきがされていない道まで歩いてみた。といっても、積雪のせいで道は定かに判別できなかったが。  周辺には家や店など、他の建物は見あたらなかった。電柱さえなかった。ただ遠くに雪山と、雪解けの時期には顔を出すかもしれない畑や田んぼがありそうな平地が広がっているだけだった。
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