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だけど、むぎ子の言葉は本当だった。ゲーセンに一緒に行って欲しかったし、褒められる山形さんにやきもちを妬いたのだ。
店長も同じだった。彼は薬指の、垢まみれの汚れた指輪を光らせて、「ごめん。」と言った。そして、照れ臭そうに、「そんなら、お互い様だ」と言った。
「はい、お互い様です」
「あーあ」店長は上体を思い切りそらして、伸びをした。そして、「俺、心配で、おかしくなっちゃいそうだ。毎日毎日あいつらにやきもち焼いてさ。むぎ子さん、モテるんだもの」
むぎ子は溢れ出す笑みを抑えようともしなかった。「心配しないでいいですよ」と言った。
それも本心だった。むぎ子は店長のことが誰よりも好きであったから。
「どうだかな」店長はむぎ子にも、自分自身にも呆れたような顔をして、机に向き直った。
むぎ子は机の上の履歴書を覗き込み、「新人ですか?」と尋ねた。
「うん、高校生の男の子」
「へえ…」
「手、出されないでよ、ね、頼むから」
むぎ子は「まさか」と笑った。内心では、とても楽しみにしていた。
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