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それは一年前のことだった。化学の授業中、先生に当てられる順番を待っている時、緊張のあまり心臓が飛び出しそうなほど苦しくなった。いつもの緊張とは段違いだった。大げさではなく、このまま死んでしまうのではないかと思われた。
当てられたら、しっかり答えられるだろうか?声が震えてしまうのではないか?それを見たみんなはどう思うであろうか?私は明るい子で通っているのに。笑われる?見下される?哀れに思われる?手汗が教科書を濡らし、体がブルブル震えた。
むぎ子の当てられる直前にチャイムがなって、その場は結局、当てられずにすんだ。しかし次こそ当てられるかもしれないということに、異常な不安を感じ始めた。
むぎ子は自分のそれを、正常な緊張の範囲を逸していると思った。もちろん、誰だって緊張はすることはわかっていた。だけど自分のそれは、あまりにも振れ幅が大きすぎたし、そのことに対する不安が、生活のすべてに暗い影を落とし始めていることは明らかだった。
「あんたはどうでもいいことを考えすぎ。甘えてるだけ。そんなことを気にしてる暇があるなら勉強しなさい」勇気を出して相談した母はそう言って、請け合おうとはしなかった。
「緊張はするよ。だけど、眠れなくなるほどじゃないかな。究極、こいつらにどう思われてもいいって思ってるし」一番仲の良かった、少し斜に構え気味の友達はそう言った。
「そうは言われてもねえ。緊張って、みんなするものでしょう?」現代文の新任教師はそう言って笑った。
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