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一回目、むぎ子はそれを真顔で読む。二回目も同じように真顔で読み直す。一文字一文字追うごとに、むぎ子の中に、勝利の喜びが募ってゆく。20回程読んでから、むぎ子は自分の表情筋がだらしなく緩みきっているのに気づく。慌てて顔を引き締めて、それをさも迷惑だ、という顔をして枕元へ放り出す。
むぎ子はタオルケットをひっかぶって、目を瞑る。タオルケットを口元まで持ってきて、少し、少しの間だけニヤニヤする。
やっぱりそうなったか。野田先輩は私のことが好きになっちゃったんだ。一度、フェイスブックで彼女の写真を盗み見したことがある。こじんまりとして、そこそこ、可愛らしい女だった。よく見ると、そんなに可愛くなかったけど。だけどそっか、先輩、あの彼女よりも私のことを…いつからだろう?焦ってんだろうなあ、今頃。明日どんな顔で会えばいいんだろうって。こっちはあえて、何も気にしていない風を装ってやろう…そんなことを考えながら、むぎ子は気持ちよい眠りにつく。
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