2、つけ場

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2、つけ場…調理場のこと。    バイトの一時間前くらいから、むぎ子は緊張を感じ始める。気だるさと緊張が混ざったような、苦しい気持ちになる。けれどもそれも、着ていく服装を選んでいるうちに、淡い期待と心地よい興奮に変わってくる。    大抵が、ジーンズにブラウスという、適度に味気ない服に決まる。化粧は下地を塗って、毛のない眉に数本描き足すくらいのナチュラルメイクと決まっている。    家から寿司屋までは、歩いて10分とかからない。気持ちを盛り上がらせるために、お気に入りの曲を聴く。今一番気に入っているのは、メロディライン強めのパンクロックだ。混み合う昼間の商店街のど真ん中を、堂々とした足取りで、むぎ子はずんずん進んでゆく。欲しいものなど特にないとわかっているのに、行き場なく練り歩く買い物客たちの導線を、むぎ子は素早く避けてやる。自分はこの商店街の持て成し側であるという義務感が、彼女にそんなことをさせるのだ。
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