2、つけ場

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   厨房に足を踏み入れると、充満した酢飯のにおいが鼻をつく。この匂いを嗅ぐと、むぎ子はいよいよ高まってくる。 「おはようございます」  威勢の良い挨拶をすると、寿司屋の男たちはそれぞれの寿司ネタを手に、むぎ子に挨拶や微笑みを投げかける。  だが、店長だけは笑わない。禿げかかった中年の、半魚人みたいな顔の店長は、ギョロギョロした瞳を解体途中のマグロに向けながら、「っす…」とつぶやくだけである。むぎ子は店長のはち切れそうな背中を冷めた瞳でちらっと見てから、すぐに目をそらした。  野田先輩は厨房の隅っこに立って、イカを解凍中であった。むぎ子の挨拶に、彼は恐る恐る振り向いた。先輩は顔がへちゃむくれている。目はクリクリしていて、背は小さい。イケメンと呼ばれるのにはあと3歩ほど及ばない。  野田はむぎ子を見ると、おはよう、とはにかんだような顔を向けた。すぐに視線を戻して、シャリロボが繰り出すシャリをひっつかむと、まだ半分凍っているイカをのせた。むぎ子はそんな彼のことを、やっぱりかわいい、と思う。平静を装いながらイカを乗せ続ける  彼の背中が、いじらしい。むぎ子はこぼれそうな笑みを抑え、姿勢を正し、自らのお立ち台であるレジへ向かって、堂々と進んで行く。
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