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むぎ子がこの寿司屋で働き始めて、もう半年になる。全国展開する大手の寿司チェーンだ。売り上げは地区内でもトップレベルで、土日祝日は、ひっきりなしに客がくる。向かいにはお茶屋、右隣には仏壇屋、左隣には学生服の店が軒を連ねている。
むぎ子の担当はもっぱらレジ打ちであった。というのは、厨房で寿司を作る作業に関しては、いびつな軍艦巻きしか作れないことと、必ず多すぎるか少なすぎるかするわさびしか繰り出せない不器用さを見透かされてから、二度とやらせてもらえなかったのだ。だからむぎ子は、昼の1時から閉店の9時半まで、ほぼ休みなく、ひたすら数字を打ち続けてゆく。
土日祝日の夕方は、パック寿司を求める客で、二軒先まで行列ができる。レジは一台しかない。むぎ子は客たちを無我夢中でさばいてゆく。ショーケースの裏側の熱で汗が溢れ、ボタンを押す指先は引きつれてくる。自分がお酢臭くなってくるのを感じる。
しかしむぎ子はそういう時、心の底で、果てしない幸福を感じている。自分がこの寿司屋という、社会のほんの一片の、真摯で従順なネジとなって、ぐるぐるぐるぐる回転し続けている姿を、あの時の自分に、見せてやりたいと思う。
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