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「むぎ子チャン、むぎ子チャン」
ひと段落つき、客もまばらな夜の9時前。一人の怪しい中国人が近づいてくる。閉店間際、売れ残りの寿司が割引になって安くなり始めるのを、毎日のように待ち構えている女である。尻まで伸ばした髪の毛はチリチリで、肌は黄色く、全身は痩せて骨のようである。いつも派手な色のタンクトップを着て、両腕には大量の買い物袋を下げている。
「むぎ子チャン、今日もカワイイネ」
「はあどうも」むぎ子はいかにも困った風を装いながら、相手をしてやる。自分をほめる人間は、どんな嫌われ者であれ、邪険にはしないと決めている。
「カワイ子チャンに、プレゼント」
そう言って中国人は、買い物袋を差し出した。中を覗くと、強いニンニクとごま油の香りがした。商店街の入り口にある中華総菜屋の、小龍包のパックが二つ入っている。
「ありがとうございます、すいませんどうも」
「ココノ、ソウザイね、全部、オイシイヨ。ネエ、アンタカレシ、イルノ」
「いいえ、いないんです」
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