2、つけ場

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「むぎ子チャン、むぎ子チャン」  ひと段落つき、客もまばらな夜の9時前。一人の怪しい中国人が近づいてくる。閉店間際、売れ残りの寿司が割引になって安くなり始めるのを、毎日のように待ち構えている女である。尻まで伸ばした髪の毛はチリチリで、肌は黄色く、全身は痩せて骨のようである。いつも派手な色のタンクトップを着て、両腕には大量の買い物袋を下げている。 「むぎ子チャン、今日もカワイイネ」 「はあどうも」むぎ子はいかにも困った風を装いながら、相手をしてやる。自分をほめる人間は、どんな嫌われ者であれ、邪険にはしないと決めている。 「カワイ子チャンに、プレゼント」  そう言って中国人は、買い物袋を差し出した。中を覗くと、強いニンニクとごま油の香りがした。商店街の入り口にある中華総菜屋の、小龍包のパックが二つ入っている。 「ありがとうございます、すいませんどうも」 「ココノ、ソウザイね、全部、オイシイヨ。ネエ、アンタカレシ、イルノ」 「いいえ、いないんです」
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