道化の救い

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 やがて人との関りも、社会的立場も面倒で馬鹿らしいものと感じるようになった私は、小さな部屋に閉じこもりました。窓が一つあるだけの、殺風景で物寂しい小さな部屋に。そこで一日中壁を眺めながら、自分という存在の価値について思案する日々を送りました。楽しさこそないけれど、一人きりでいる限り、私は私を取り戻せました。道化でいる必要が無い日々は、それだけで心が幾らか楽でした。根本的に何も解決していないのですから、心労が綺麗に無くなるなんてことはありませんでしたが。  数か月、あるいは一年程でしょうか。日付や時間の感覚があやふやになる程の日々をそうして過ごしました。いつまでもこの小さな部屋に一人でいられるならそれが理想です。けれど現実的な話ではありませんでした。もう手元に金が無かったのです。  私は選択を迫られました。また道化となって人間社会へ混じり、地獄を何十年と生きるのか、即刻死んであの世の地獄へ行くのかの選択です。 私の中に、死ねば救われるなどという考えはありませんでした。私は道化です。常に他者に嘘をついて生きてきたのです。そんな私が死んでも極楽浄土なんてものに行けるわけありません。結局のところ、いつだって私にあったのは地獄と地獄の選択だけだったのです。  ……私は選びました。地獄を選びました。 何故かと言えば、ふと部屋の窓から覗いた世界がとても美しく、優しく感じられたからです。部屋の中から私がいくら手を伸ばそうと、触れることなど叶わないほど遠く、憎らしいほど尊い光景でした。 私はきっと、私という存在の意識が途絶える瞬間まで、その光景を忘れはしないでしょう。  
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