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足音はイワキ探偵事務所の前を通り過ぎた。
それを確認して、溜め息を吐いた。
(又仕事依頼じゃなかったのか?)
がっかりしながら叔父を見る。
叔父は呑気に居眠りをしていた。
その時電話が鳴り、叔父は慌てて受話器を取った。
「何だ、木暮(こぐれ)君か?」
叔父はぶっきらぼうに受話器を俺に渡した。
木暮っていうのは俺の親友で、時々女装して探偵事務所を手伝ってくれていた。
所謂俺のバディなのだ。
「木暮、確か今日は海水浴だって言ってたな?」
『海水浴じゃないよ。海の家の手伝いだって言ったろ』
「あ、そう言えば聞いた覚えがあるな? 確か、海開きして100年目だとか?」
「そうなんだよ。明治時代から続く歴史のある海水浴場なんだ。其処に親戚が休憩場所を接地して今年で丁度100年なんだ。でも今危機に瀕してる。だから瑞穂(みずほ)の霊感を借りようと思って電話したんだよ」
「俺の霊感!?」
その言葉を聞いて、叔父が立ち上がった。
どうやら仕事だと勘違いしたようだ。
俺には霊感がある。
子供の頃にもあったようだか、今は強大になっている。
俺はその力で幾多の難事件も解決してきたのだ。
「危機に瀕してるって?」
『霊感のない俺が、幽霊の声を聞いたんだ。だけど皆、錯覚だろうって言ってる。だから怖いんだ』
「そりゃ、皆が正しいんじゃない?」
「何だよ、瑞穂まで俺を馬鹿にしているのか」
「違う……」
そうは言っても、次の言葉が出て来なかった。
『一度此方に来て、瑞穂の霊感で調べてみてくれないか?』
「その海水浴場って?」
『ホラ、俺の親戚が経営している海の家だよ。一度瑞穂を連れて来たことがあったろ?』
「あぁ、彼処か?」
そう言った途端に子供の頃の思い出が甦った。
その瞬間に俺は鳥肌に被われた。
「其処はヤバいって!」
『ヤバいって、何が?』
「あの時、俺は何かを感じて海岸に近付けなかった。それを今思い出した」
『やっぱり何かが居るのか?』
「おそらく子供の霊だ」
『やっぱり』
木暮は黙ってしまった。
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