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Cigarette
教室に女性チューターが入ってきて教壇に立ち、出席を取り始める。名前を呼ばれた生徒が、順番に返事をしてゆく。
「数田永矢くん」
「はい」
僕は自分の名前を呼ばれ、返事をする。それを確認してから、チューターは次の生徒の名前を呼ぶ。
「佐藤忍さん」
だけど、チューターの声が響くだけで、それに応える声はない。
浪人生活が始まってもう二ヶ月が経つ。予備校での生活にもずいぶん慣れてきた。だけど僕はこれまでに、僕の次に呼ばれるその生徒が返事をするのを聞いたことがない。
佐藤忍というその生徒は、これまでに一度もホームルームに顔を出していないどころか、授業にも出席していない。どうして予備校に籍を置いているのかすらわからない。
授業を受ける気がないのなら予備校などやめてしまえばいいのにと思わないこともない。だけど、二度目の大学受験に向かっている僕は、他人のことなど気にしている余裕などない。
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