Cigarette

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 ゲームセンターを出ると、忍は僕の手を引っ張って歩き出す。忍は相変わらずアイネ・クライネ・ナハトムジークを鼻歌で歌っている。僕は行き先もわからないまま忍に付いていった。  忍が最初に僕を連れて行ったのはカラオケだった。僕はあまり歌が得意ではないから、カラオケにはあまり行ったことがない。それでも僕は、数少ない知っている曲を何とか歌う。一方の忍は、透き通った声で音程を外すこともなく、惚れ惚れするような歌い方をする。僕は何度も感嘆の声を上げ、拍手を送った。  昼過ぎまでカラオケを楽しみ、その後で僕たちは映画を見る。話題のアクション映画だが、忍の好みには合わなかったのか、大きな欠伸を連発している。結局、ラストシーンを迎えたときには、忍は完全に夢の世界へと旅立っていた。 「ねえ、ちょっと遅くなったけど、昼ごはん食べに行こうか?」  映画館を出るなり忍が言った。時計を見ると、もう午後三時を回っている。昼食と言うにはあまりにも遅すぎる。とはいえ、朝食を摂ってから何も食べていない僕の体は空腹を訴えている。 「じゃあ、その辺の喫茶店で何か食べよう」  僕はそう答えて、何度か行ったことのある喫茶店に向かった。  喫茶店に着くなり、忍はサンドイッチセットを注文して、タバコに火を点けた。タバコの先からゆらゆらと立ち上る白い煙を見ながら僕は言った。     
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