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「どうしてタバコなんて吸ってるの? 体に良くないし、脳にだって良くないのに」
「気晴らしよ。タバコくらい吸ってないと、やってられないのよ」
「それって、予備校に来ないのと何か関係あるの?」
「まあね」
忍はそう言うと、アイネ・クライネ・ナハトムジークを口ずさみ始める。それ以上は答えたくないという意思表示だと思い、僕は話題を変える。
「そう言えば、どうしていつもアイネ・クライネ・ナハトムジークを歌ってるの?」
「姉を忘れないためよ」
「お姉さんを?」
「うん。私には姉がいたの。でも、死んじゃった」
「え!? 病気か何か?」
突然の重たげな話に、僕は思わず声をひそめる。
「ううん、自殺したの。まあ、両親に殺されたようなものだけど」
「どういうこと?」
「私の両親は、とにかく体裁ばかり気にする人たちなの。姉は勉強が苦手だというわけではなかったけれど、飛び抜けて優秀だってわけでもなかったの。それでも、地方帝大クラスなら十分に合格できるくらいの実力はあったわ」
「普通なら、それで十分じゃないかな?」
「そう、普通ならね。だけど、私の両親は体裁ばかり気にして、姉に東大に行くよう押し付けたの。そのせいで姉はノイローゼになって、最後は自殺したのよ」
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