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狭い店内はタバコの匂いに満ちている。僕はタバコを吸わないが、他のゲームセンターで慣れているせいもあって、匂いは気にならない。店内には様々なゲームが並んでいる。格闘、パズル、レーシング、シューティング。何をするか少し迷ったが、たまたま得意な落ち物パズルゲームが目に止まったので、それをすることにした。
ゲームを始めて五分ほどしたとき、僕の隣の格闘ゲーム機に誰かが座った。僕は横目でチラリとそちらの方を見る。すると、そこにはスラリとしたモデル体型の女が座っていた。艶のある真っ直ぐな黒髪を肩甲骨の辺りまで伸ばしたその女はひどく大人びて見えるけれど、おそらく僕と同い年くらいだ。まさにモデルのように顔が小さく、そこに大きな瞳と筋の通った鼻、少し薄めの唇がバランス良く配置され、綺麗な顔を作り上げている。
女は百円玉をゲーム機に投入すると、早速ゲームを始める。しばらくすると、女はコントローラを器用に動かしながら、鼻歌を歌い出す。それは、僕も聞き覚えのある曲だった。
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
僕は思わずその曲の名前を呟いた。すると、女はゲーム画面を見据えたまま、
「よく知ってるね」
と言った。
「父がクラシック好きだから」
僕も画面を見据えたまま応える。だけど、それに対する反応はなく、女は再び鼻歌を歌い始めた。
しばらくしてから、不意に、
「ねえ、君、タバコ持ってない? ちょっと切らしちゃってて」
と女が言った。
「僕はタバコなんて吸わないよ。まだ未成年だし」
「ふうん。真面目なんだ」
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