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「真面目っていうか、受験生だし、タバコは脳にも良くないし」
「へえ。予備校生?」
「うん、そうだよ」
「すぐそこの予備校?」
「そうだよ」
どうしてそんなことを訊くのだろうと不思議に思いながら、僕は答える。
「クラスは?」
「東大京大文系クラス」
「へえ、私と同じクラスなんだ」
女の言葉に、僕の手が止まる。僕はこれまで一度も休むことなくホームルームにも授業にも出席している。だけど、僕は目の前にいる女をこれまでに見たことがない。
「もしかして、佐藤忍さん?」
僕は尋ねてみる。
「そうよ。よくわかったわね」
忍は相変わらず画面を見据えながら答えるけれど、口元に笑みが浮かんでいる。
「わかるに決まってるよ。僕はちゃんと毎日予備校に通ってるからね」
「やっぱり真面目なんだ」
「そういう意味ではね。まあ、それでなくても、君は僕たちのクラスでは有名人だけどね。一度も顔を見せない謎の女ってね」
「あら、そんなことになってるんだ」
「うん。だけど、どうして予備校に出てこないの?」
「勉強したくないから」
忍は何事もないかのように、さらりと答える。
「勉強したくないなら、どうして予備校に籍を置いてるの?」
「親が行けって言うから」
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