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その伝達でホームルームは終わった。チューターが出ていくと、教室のあちこちからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。話題はもちろん忍のことだ。だけど、話題の主である忍は、静かに席を立つと、教室を出ていってしまった。そして、授業が始まっても、彼女は戻ってこなかった。
昼休み、僕は用事があるからと、静雄からの昼食の誘いを断り、あのゲームセンターへ向かった。すると、予想どおり、忍の姿がそこにあった。忍は一週間前と同じゲーム機に座り、画面とにらめっこしている。僕は忍の隣のゲーム機に座る。忍は僕に気づいていない様子で、アイネ・クライネ・ナハトムジークを鼻歌で奏でている。
「ねえ、今日はどうしてホームルームに来たの?」
僕は忍に声をかけた。すると、不意に声をかけられたことに驚いたのか、忍は、
「うわっ!!」
と派手な声を上げた。
「何よもう。びっくりするじゃない」
「それはごめん。それで、今日はどうして突然ホームルームに来たの?」
僕はゲーム機に百円玉を入れながら尋ねた。
「何となく気が向いたからよ」
「ふうん。でも、授業に出なきゃ意味がないだろう?」
「授業にまで出る気分じゃなかったのよ」
忍はそう言うと、鼻歌でアイネ・クライネ・ナハトムジークを歌い始める。僕はゲームの画面を睨みながら、コントローラーを動かす。
「ねえ」
ゲームを始めて一分ほどして、忍が声をかけてきた。
「君は東大のどの学部を志望してるの?」
「文科一類だよ。そして、そのまま法学部に進みたい」
「どうして?」
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