月狂条例第三/待宵月

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「念の為私は、出血多量で死亡した男の素性を独自の経路で洗いました。そしたらその男はロンドン郊外にある精神病患者の施設に月狂条例の下、収監されていた事が判ったのです。」 嗚呼、本当に鬱陶しい男だ。 「その施設は歴様…貴方が収監されていた施設と同じでした。」 昔から僕は、僕と暦の間を邪魔する人間が大嫌いなんだ。 「嫌な予感がした私が施設を訪ねてみれば、そこには歴様の存在も過去に収監されていた記録もありませんでした。施設に保管されていたデータ全てから貴方の存在が消えていた…間違いなく貴方はあの施設に収監されていたはずなのに。」 ただ、決定的な証拠は何一つ掴めませんでした。そう言って悔恨の情を滲ませる男は僕を睨みつける。 「でも、私には確信があります。精神病施設から脱走し、データを消去する事は歴様にとっては容易な事。そして貴方は旦那様と奥様が英国に訪れる機会を待ち、施設で適当に見繕った犯行可能な人間にお二人を殺害させた。…そうですよね?」 「何のこと?随分と妄想が好きなんだね。」 「惚けないで下さい。」 「死人に口なし。そう言うじゃない、あの事故の当事者は全員死んだ。もう誰も真相を知る者はいないし、語れる者もいない。何の証拠もないのに僕を犯人に仕立て上げるのはやめてくれる?不愉快だよ。」 廊下に設けられた大きな窓から望める空が、薄っすらと白んで明るくなり始めている。 そろそろ夜が明けるらしい。
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