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暦様が元気を戻された。
暦様が漸く立ち直られた。
翌日から屋敷は、暦の話題で持ちきりだった。
使用人たちが皆、彼女の回復を祝福していた。
「お医者様はなんて?」
「問題ないって。」
「そっか、安心したよ。」
「歴のおかげだね。」
「ふふっ、暦の日ごろの行いに神様が救いの手を差し伸べてくれたんだよ。」
点滴が外され、久しぶりに口から食事を摂ったからか、彼女の顔色が良くなっている。
ベッドに腰を下ろして頭を撫でてやる僕に、暦は身体を密着させてきた。
「いつ、英国から帰って来たの?」
「訃報を聞いてすぐだよ。独りぼっちになっている暦が心配で気づけば飛行機に飛び乗っていたんだ。」
「それじゃあずっと、私の傍についててくれたの?」
「うん。」
「そんな…半年もの間、歴が隣に帰って来てくれている事に気づけなかった自分が情けない…。」
「気に病まないで、両親が亡くなった悲しみに沈んでいたんだから、仕方ないよ。」
太陽が昇っている空は、澄み渡った蒼色が広がっている。
幼い頃、こうして天気の良い日には、屋敷の離れに建てられた薔薇園でよく暦とかくれんぼをして遊んでいた。
使用人も滅多に来ないあの場所は、二人で秘密を共有するには持ってこいの場所だった。
懐かしい記憶を思い出して、胸が高鳴る。
「パパとママが滞在先で交通事故に遭ったって聞かされた時、全身から血の気が引いたの。」
「怖かったね。」
「よりにもよって旅先の英国で事故が起こるなんて…。」
両親を愛していた彼女にとって、二人の死は大きな哀しみだったに違いない。
だからこそ、精神的ショックで、半年間もベッドの上で感情の抜けた人形のように変わり果てていたのだ。
筋肉もすっかり衰えて、歩く事ができない暦。
もう自分の力では好きな場所へ行くことも、やりたい事をする事もできないのだ。
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