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思い出しただけでも胸糞が悪くなる記憶は、そう簡単に忘れられそうにはない。
無理矢理それを頭の片隅へと追いやって、僕は幼い頃に内密に創った薔薇園へと繋がる扉の鍵をポケットから出して開錠した。
木や錆びついた金具が軋む音を立てながら、彫刻が施されている立派な扉が開く。
その先に広がっているのは、手入れの行き届いた一面薔薇で彩られた花壇。
深紅の薔薇で統一されている理由は、単純にこの薔薇園を造らせた先代が好きな色だったからだと聞いた事がある。
久しぶりにここを訪れた観賞者を、咲き誇る薔薇たちが歓迎してくれているような気がした。
「中もあの日のままだね、懐かしい。」
右へ左へ忙しなく頭を動かして、無邪気な表情を見せる暦はまるで初めてここを共に訪れた時に戻ったみたいだ。
「覚えてる?初めてここに来た時、私達と薔薇の背丈が同じくらいだった。」
「ふふっ、そうだったね。でも暦の方が少し小さかった。」
「そんなはずない、だって私達は同い歳なんだよ?身長だって大した差はなかったもん。」
ほんの悪戯のつもりで吐いた言葉に対して、頬を膨らませて訴えてくる彼女は酷く可愛い。
僕は口許に放物線を描きながら、彼女の空気を溜めた頬を人差し指で優しく突いた。
「冗談だよ、そんなに怒らないで。」
「お、怒ってなんかないよ。」
「本当?」
「……歴が…キスしてくれたら…許しちゃう。」
「ふはっ、それは困ったなぁ。」
大きな瞳が上へと向いて、そこに映し出される自分の顔。
早くしてくれないの?と言わんばかりに瞼を伏せて、唇を閉じて待っている彼女はこれだけで僕の欲情が盛大に?き乱されている事を知らないのだろう。
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