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硝子で造られた天井から覗く満月が、欲に煽られた僕の姿を照らしている。
「そういうの、可愛過ぎて困る。」
「んっ…。」
小さく苦笑を漏らしてから、そっと彼女に接吻する。
何度か軽く触れるだけで、深くなる前に終わった口付けだけで満足できるわけがない。
「これで許してくれる?」
「うん。歴なら何でも許しちゃう。」
「甘い人だね。」
「そうだよ、好きな男には無条件に甘いの私。」
「知ってる?」
「何を?」
唐突に投げられた問い掛けに、彼女はきょとんとした表情で首を横に倒した。
そんな相手と目線が絡む位置まで屈んだ僕は、口を彼女の耳元へと寄せて言葉を吐く。
「それ、僕も同じだって事。」
「………っっ。」
僕の落とした声に、暦の頬が仄かに桜色へと染まる。
すぐ傍で咲いている一輪の薔薇を手で?ぎ取った僕は、甘い香りを広げる花に鼻を近づけた。
「それじゃあ歴は、私を甘やかしてくれる?」
薔薇へと落とされていた視線が、正面から掛かった彼女の声で上昇する。
「うん。ドロドロにね、蕩けるまで暦を甘やかしたい。」
甘やかせば甘やかす程、それを受けている人間は堕落していく。
何もできなくなって、甘さを頼り、甘さを求め、甘さに縋り、そして……甘さに依存する。
そう、だから早く暦も僕に甘えてしまえば良い。
甘さに沈んで、溺れて、窒息してしまえば良い。
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