月狂条例第二/半月

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深紅の花弁(はなびら)に優しくキスをして、暦の膝の上に乗せる。 それをそっと両手で持ち上げた彼女は、深紅の薔薇を眺めて目を細めた。 「昔ね、ママが言っていたの。美しい薔薇には棘があるように、美しい人間にも棘があるんだって。それに触れてしまうと怪我しちゃうんだって。」 「……。」 「その話を聞いた時に、最初に浮かんだのが歴の顔だった。」 「……。」 「ママが言っていた事は本当だった。」 彼女の冷えた指先が僕の頬を滑る。 輪郭をなぞるように降りた指からは、薔薇の移り香が漂っていた。 「だって私、歴に触れたから怪我しちゃった。」 彼女が僕の唇に触れて、微笑する。 「歴以外の人を魅力的に思わない病気になっちゃった。それに、歴に触れたから…私の前から歴がいなくなってしまって心が傷ついた。」 「僕が日本を去って、傷ついてくれたの?」 「勿論。苦しくて悲しくて堪らなかった。でも、もう良いの…今私は美しい薔薇にこうしてまた触れてるから、傷も癒えた。」 「僕以外を魅力的に思わない病気は治ったの?」 「永遠に治りそうもないよ、かなり重症みたい。」 「それは大変だね、僕が責任を取らなくちゃ。」 唇に乗せられていた彼女の指を口に含む。 熱い舌で丁寧に舐めれば、冷え切っていた指もすぐに僕の体温に融かされてしまった。
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