月狂条例第三/待宵月

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使用人が寝静まっている屋敷は、不気味な沈黙に包まれている。 「疲れた?」 「ううん、幸せ。」 「僕も幸せだよ。」 ベッドの上に肢体を寝かせれば、彼女は体力の限界なのか欠伸を零している。 孤独に過ごしていた夜は虚しかったけれど、暦との夜は愛おしい。 「僕は一度、着替えてくるから暦は先に休んでて。」 猫っ毛の髪を撫でてあげているこの瞬間にも、彼女は眠たそうに目を擦っていて夢の世界へ行ってしまいそうだ。 額にそっとキスを落として、踵を返そうとした僕の手首を彼女の弱い力で制される。 「どうしたの?」 「戻って来る?」 「当然だよ。」 「ちゃんと戻って来て。明日も明後日も…これからは毎日歴の腕の中で目を覚ましたいの。」 「約束する。」 なんて愛らしいお願いなんだろう。 僕のせいでこんなに穢れてしまっているというのに、何も気付かずにこちらの策略に嵌って、自分を不幸にした男を愛している哀れな人。 「おやすみ、暦。」 幼い頃から暦の全てを奪ってきた。 暦が僕に依存してくれるように、何だってした。 「おやすみ、歴。」 そうして、念願叶って暦は今僕の物になった。 愛しい愛しい暦。 僕の荊で縛られた、可哀想な暦。 「…可愛い寝顔だね。」 彼女が瞼を完全に閉じるのを見守ってから、僕は部屋を後にした。
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