ここで会ったが、百年目

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そして朝食を終えると、俺達は豆腐作りの続きに取り掛かった。 鍋の中、大豆は水分をたっぷりと吸収して、いい感じに膨らんでいる。 「な、見てみ?  これくらいなるまで水気を吸わせるんだ。  昨日お前が火にかけようとした、生のままの大豆とは、かなり様子が違うだろう?」 小僧はちょっと背伸びして鍋の中を覗きこみ、真剣な表情でこくこくと頷いた。 「次はこれを使った、豆乳作りだ。  この大豆と水をミキサーにかけて、とろっとろのクリーム状にしていく。」 棚の上段から、豆腐作りの為だけに購入したミキサーを取り出す。 すると小僧は興味津々といった感じでそれを見つめ、瞳を輝かせた。 思わずまた噴き出しそうになったけれどそれを堪え、ミキサーに材料の三分の一ほどを投入した。 スイッチを入れると、ガガガガとそれは豪快な音を立てて歯を回転させた為、小僧は相当驚いた様子でぴょんと飛び上がった。 そこで俺は我慢の限界を越え、腹を抱えて大笑いした。 小僧は顔を真っ赤にして涙目で頬を膨らませ、俺の背中をポカポカと叩いた。 ようやく笑いが治まると、残りの三分の二も順にミキサーにかけ、その全てを先程の鍋へと戻した。 スプーンで軽く一匙(ひとさじ)(すく)い、その(なめ)らかさを小僧に伝える。 小僧はうっとりとした表情でそれをまた覗き、それから匂いを嗅いだ。 「なんか、変な臭いですね...。  師匠。」 眉間にシワを寄せ、小僧は言った。 「まだ火を、入れていないからな。  ちょっと、青臭い感じだろ?  ここから加熱する事で、豆腐のいい匂いに変化するのさ。」 小僧は感嘆したように息を吐き、そして満面の笑みで答えた。 「はいっ!勉強になります、師匠っ!」 「おぅ!でも、師匠はやめろ。  ...昨日みたいに、お兄さんと呼べ。」 小僧は俺を見上げ、ニッと笑って言った。 「はい..師匠お兄さんっ!」 ...駄目だ、こりゃ。 俺はちょっと苦笑して、次の工程に入った。
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