ここで会ったが、百年目

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「...お前もしかして、豆腐小僧か?」 妖怪なんてモノを見るのは初めてだけれど、恐怖よりも好奇心が勝ち、近付いて声をかけたのは俺の方。 すると少年はこちらを見上げ、嬉しそうに大きな口をあけ、にんまりと笑った。 「お兄さん、おいらの事が見えるんだね。」 「うん、見える。  でも、そう答えたって事は...やっぱりお前、そうなんだ?」 くくっ、と笑い、確認の意味を込めて再度聞いた。 少年の姿をした(あやかし)は、今度は真剣な表情を浮かべ、小さくこくんと頷いた。 「ここで会ったが、百年目。  ...積年の想い、受け取れぃっ!」 小僧は叫ぶようにそう言うと、豆腐の皿をしっかと握り直し...鬼の形相で、俺の口内にそれを突っ込もうとした。 「ちょ...、待てっ!落ち着け、小僧っ!」 反射的に、それを避ける俺。 すると少年は、雨で地面がぬかるんでいた事もあり、すってーんと横転した。 宙を舞う、真っ白な豆腐。 「「あーーーっ!!」」 重なる、ふたつの声。 慌てて二人、手を伸ばしたものの、間に合わず...その柔らかな塊は、地面に叩き付けられた。 「...どうしてくれるんだ。」 妖怪が俺を睨み付け、半泣きで聞く。 俺は彼を睨み返し、そして答えた。 「それは、こっちの台詞だよ。  豆腐マニア、舐めんなっ!  あれ食ったらどうなるかなんて、こっちはちゃんとお見通しなんだよっ!」 幼い頃、頼んでもいないのに両親から買い与えられた、『平成妖怪大事典』。 他のページには全く興味を持てず、流し読みしかしなかったのに、『豆腐小僧』のところだけは、飽きる事なく何度も読み返した。 それこそページが破れ、取れる程、だ。 俺の言葉に少年は、ハッとした顔をして、視線をそらし吹けもしないのに口笛を吹く真似で誤魔化そうとした。 可愛らしい少年の姿をしていても、やはり百戦錬磨の妖怪。 ...なんて恐ろしいヤツなんだ。
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