ここで会ったが、百年目

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小さい頃から俺は、豆腐が好きだ。 いや、好きなんていう言葉では、足りない。 ...愛している。 そのため市販の豆腐では飽き足らず、数年前から自宅で手作りするようになった。 お取り寄せした北海道産の大豆と、いくつも試して厳選したにがりを使って自作したその味は、まさに至高。 すっ、と鼻を抜ける、爽やかな大豆の香り。 人工の甘味料など使っていないのに、ふわりと広がる甘味。 ふるふると口内で震えて熔ける、舌触り。 自分で言うのも何だけれど、俺の作る豆腐は日本一...いや、世界一と言っても、過言ではない(はずだ)。 だからきっと、呼び寄せてしまったんだな。 ...雨の中、じっとこちらを見つめている、三度笠に草履、そして粗末な着物なんていう時代錯誤もいいところな格好をした得体の知れない少年。 そして小さな手にしっかりと握られた皿の上に置かれているのは、『豆腐』だ。 それを見て俺は、ピンと来た。 来てしまった。 ...あれって、妖怪『豆腐小僧』じゃね?
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